第十一話「待ってましたよヒーロー警部!」第十一話「待ってましたよヒーロー警部」怪盗シェルが新たな仲間、レオと共に博物館を襲い始めると同時、その博物館の入り口に一台のパトカーが到着した。 その中から慌てて飛び出すのは一人の警察官である。 彼の名前は近藤・竜太郎(こんどう りゅうたろう)。こう見えてもネルソンと同じ警部さんである。実は彼、今回の事件で犯行予告から遅れて到着した――――つまり遅刻した――――のである。 「急いできたけど……この様子だと間に合わなかったか!」 艦内に鳴り響くサイレンの音はまさに遅刻した証拠だ。 これでは学校のチャイムである。 「くっ、仕方が無い……」 すると彼は何故か再びパトカーの中に引き返した。 その中でゴソゴソと怪しい作業をする事十分。ようやく彼は姿を現した。 「行くぞ、ヒーロー警部。参上!」 すると、何故か彼は何処かの特撮番組にでも出てきそうな変な格好をしてパトカーの中から飛び出した。 ネルソン警部の妄想であるポリスマンの色は基本的に赤だが、この男は黄色である。 先ほどからではまるで分らない逞しい筋肉が妙に目立つ彼のあだ名は「ヒーロー警部」。 実はサイボーグ刑事と同じように警官四天王の一人である。 シェルとレオの二人は警官隊で埋まっている最短ルートを避けて、確実にターゲットを入手するべく少々遠回りをしていた。 その遠回りと言うのは、ターゲットの真下である。 「此処か………」 「うむ、この真上にターゲットはある」 レオは静かに天井を睨みつける。 実はこの真上に最終兵器の一つ、今回のターゲットでもあるリーサル・ソードがあるのである。 そして警備隊もターゲットがいる部屋に集中している為か、真下のこの階にはいない。はっきり言って、今がチャンスだった。 「うーし、そんじゃあ行くか。ランス!」 怪盗シェルは槍を高々と上げると、そのまま跳躍する。 すると槍の穂先が光り始め、まるで噴水のように光が溢れ出していく。 「必殺、シャイニングランサー!」 それらしい技名を叫ぶと、最終兵器の槍は見事に天井をピンポイントで破壊した。 天井の残骸は降り注いでくる中、怪盗レオは一点だけを睨みつけている。 それは彼のターゲットである一本の刃だ。 雨のように降り注ぐ残骸と共に落ちてきた剣の柄を力強く握った彼は、そのまま何度かスイングしてみる。 次々に空を切るその一撃一撃は、確かに全てを切裂いてしまいそうに見えた。 「さて、獲物は入手した。―――――んじゃあ帰るか」 「いや、待て。何かが来るぞ!」 レオの言葉に反応したシェルは素早く槍を構えなおす。そしてレオ自身も手に入れたばかりの剣を構えた。 そして次のタイミングで、何故か勢いよく破壊された上の階からダイブしてやってきたのは他ならぬネルソン警部である。 「とうあ!」 ネルソンはカッコイイ着地ポーズを取ると、目の前にいる二人の怪盗を笑いながら睨む。そのまま上を見上げて、 「ジョン、何をしている。早くこっちに来い!」 どうやら上にジョン刑事もいるようである。 しかし、何故か彼は何時まで経ってもやって来ない。これが漫画だったら大きな文字で『シ~ン』と書かれた物が列車のようにこの場を通過していった事だろう。 「ジョン、どうした!? 何故降りてこない!?」 ネルソンは必死になって上にいるはずのジョンに呼びかけるが、それでも返答は無い。まるで幽霊のように消え去ってしまったかのようだ。 「………上で何かあったのか?」 「むぅ、確かに。先ほどまであった気配が幾つも消え去っている。……恐らく、そのジョンとやらの身に何かあったのだろう」 冷静に状況を判断する二人の泥棒。 しかしこれを聞いて黙っていられるネルソン警部ではなかった。 「何だと!? ではジョンはまるでショッカーの様な黒服に連れて行かれた、と!?」 「いや、誰もそこまで言ってないから! つーか何故にそんなに正確な名前まで出てくるのさ!?」 思わずエリックことシェルが突っ込みを入れる。 「しかしやはり黒服といえばショッカーだろう!」 「いや、だから何故に黒服!?」 なんだか埒があかない気がしてきた。 「馬鹿者! 大抵人間を拉致する悪の組織といえば黒だろうが!」 「ちょっと待て、それかなり偏見の様な気がするぞ!」 寧ろどうでもいいような気がする。 と、その時である。 「む!? エリック、何か来るぞ!」 「何!?」 猛烈なスピードで近づいてくる何かの気配を察知した狂夜の一声でようやく我に帰ったエリックは、気配のする方向を向く。 その先にあるのはこの部屋の入り口だ。 「しかし何だこのスピード! 本当に人間か!?」 エリックはいまだ嘗てこれほどのスピードでやって来る人間を見た事が無い。何故そんな事がいえるのかというと猛烈なスピードでダッシュしている事がはっきりと音で分るからだ。 ぶっちゃけるとバイクの騒音よりも五月蝿い。 そして次の瞬間、気配の持ち主はバイクのように突進してきた。 その男は何故かお祭りにでも普通に売っていそうな安っぽいお面を装備しており、赤いマントを装着して全身黄色かった。 しかしその逞しい筋肉を見たら分る。この男は意外に強い、と。 「お、お前は……!」 その男を見て真っ先に反応したのはネルソンだった。 「ヒーロー警部!」 「久しいな、ナックル警部。いや、ネルソン・サンダーソン!」 ナックル警部、というのは昔ネルソンが警官四天王だった時につけられていたあだ名である。無論、由来はその強烈な鉄拳にある。 「何だ? 知り合いなのかあんた等?」 「そう、このネルソン様とあのヒーロー警部はライバルだった。行われる警官同士の熱い戦いにおいても我々の間には引き分けしかなかったのだ!」 警官同士の熱い戦いってなんだろう、とエリックと狂夜は思うのだが、敢えて言わないでおいた。 「その通り。我々は時としては戦友であり、時としてはライバルだった」 ヒーロー警部(またの名を仮装警部と言う)は得意げに歩を進ませると、二人の泥棒の前に立った。 「自己紹介はこれまでだ。怪盗共、このヒーロー警部が逮捕してくれる!」 「来る……!」 狂夜が呟くと同時、ヒーロー警部がバイクのように突進してくる。はっきり言うと本当に人間なのか疑わしくなりそうな身体能力であった。 「必殺、ヒーローパァァァァァァァンチ!!」 それらしい技名をヒーロー警部が叫ぶと、彼は右ストレートを狂夜にはなった。 そのスピードは最早人間業ではない。過去にネルソンのストレートを見た事のあるエリックは良く分る。最早アレは超人技だ。 「ぬん!」 しかし眼鏡を外した狂夜(エリック曰く本気モードと言う)だって負けないくらいの超人である。 彼は何と手に入れたばかりの剣を使う事によってパンチを受け止めたのだ。 驚くべき所はヒーロー警部の超スピードのパンチをそれに合わせて受け止めたと言う所にある。 「何!?」 流石にこれにはヒーロー警部も驚いた。まさか泥棒に自身のパンチを受け止める事が出来る奴がいるなんて思いもしなかったからだ。 「今度は我の番だ! 行け!」 狂夜はソードをヒーロー警部に向けて突き出す。しかしヒーロー警部から見てもその攻撃は十分に防御できる。 その防御方法はズバリ真剣白刃取りである。 攻撃方法は突きなのだが、それでもヒーロー警部の恐るべき両手の握力はソードの刃を止めている。 「ぬ……ぐぐぐ!」 「ぬおおおお!」 二人の力は互角であった。 どちらかが力を緩めるとその時点で強烈な一撃を受けてしまう。 故に、先に集中力を切らしたほうが敗北するのだ。 場所を変えて地下。 この階には上の階の博物館からでは想像できないような暗い空間があった。 そんな中、何処かに消えてしまったジョン刑事はいた。 どうやら自分は何時の間にか眠っていたようである。しかし周囲を見回してみても明らかに先ほどとは違う場所だ。 まるで別の世界にでも迷い込んでしまったかのようである。 「気がついたかね、ジョン・ハイマン刑事」 すると目の前の暗い空間の中から見た事がある男がやってきた。 竜神館長である。 「うむ、君が予想よりも早く起きてくれるとは……お陰で早く実験を行う事が出来そうだ」 「……?」 寝ぼけている為か彼が何をいっているのかよく分からない。 「ハイマン刑事。あれを見たまえ」 言われたジョンは竜神館長の指差す方向を見てみる。 するとそこにはソードと同じように保管されている二つの武器があった。 片方の大きな斧は俗に言うバトルアックスと言う物だろう。こういうものまで集めているとは流石と言うべきかも知れない。 しかしその横においてある物は竜神館長が集めるにはちょっと似合わないような武器がおいてあった。 「あれは……!」 「方やリーサル・アックス。もう片方はリーサル・ナックルだ」 竜神館長は興奮している為か目つきが鋭くなっていた。 「君、リーサルウェポンについて詳しく知るつもりはないかね?」 すると竜神館長はジョンに問い掛けた。 「リーサルウェポン?」 しかし映画のタイトルでくらいでしか聞いたことが無い単語にジョンは首をかしげる。 「そう、君たちが追う怪盗が持つ槍、そして展示されているソード、そしてアックス、ナックル。これらは全てリーサルウェポンと呼ばれる、古代人が作り出した超兵器だよ」 ジョンは先ほどからわけのわからない事を言っている竜神館長を怪訝な目つきで見ているが、本人は気付いていないのかそのままトークを進める。 「そのリーサルウェポンなんだが、実は先日このような事実が発覚した。それは持ち主のレベルに合わせてリーサルウェポンも進化すると言う事だ」 「進化? 武器が?」 そんな事聞いたことが無い。 幾つも武器が合体するとかならまだ分るが、武器が進化するなんて想像もつかない。 「そう、進化だ。君の目の前にあるように、通常リーサルウェポンは普通の武器の形をしている。それはノーマルな状態―――――レベル1だ」 竜神館長は指を一本立たせて見せる。 「そしてここからが見せ場になる。リーサルウェポンは持ち主の想像力に合わせて、様々なギミックを可能にする。素晴らしい玩具だと思わないかね?」 その言葉を聞いたジョンは宇宙船での事を思い出した。 最後のあの時、マーティオの大鎌がまるでブーメランのように曲刃を飛ばした事があった。更にはエリックは槍をロケットのように飛ばした事もある。 恐らくはあれの事なのだろう。 更に例をあげるのなら、マーティオのサイズの『ウィザード・ナイフ』やバリア。柄から生えた刃。 エリックのランスが空間転移を行ったのもこれに部類される。 「それがレベル2だ」 竜神館長は二本目の指を経たせて見せる。 「そして次に、レベル3。これは凄いぞ、何と武器がロボットになるんだ」 「武器がロボット!?」 流石に此処まで来ると信じられない。 あの槍や大鎌もロボットになると言うのだろうか。 「オーストラリアで、イシュのディーゼル・ドラグーンが暴走して暴れた事があっただろう?」 あ、そういえばそんな事があったな、とジョンは思う。 あの出来事はテレビでも放送されて、世界中の話題になったのだ。それだからこそ日本に居る竜神館長も知っているのだろう。 「その時に、槍を持ったロボットが現れたはずだ」 「――――――あ」 居た。 そういえば出てきた。そんなのが。 しかも一撃でディーゼル・ドラグーンを吹き飛ばしたトンでもない破壊力を持つ機動兵器だ。 まさかあれがそうだと言うのだろうか。 しかしよくよく考えても見ればあのロボットのパイロットは怪盗シェルことエリック、つまりは槍の持ち主である。 「そう、それがリーサルウェポンのレベル3だ。そしてもう一つ」 「ま、まだあるんですか!?」 得意げに三つ目の指を上げてみせる竜神館長に、ジョンは言う。 「うむ、まだ他にも何かあるのかもしれないが我々が知る限りではこれが最後――――レベル4だ」 「レベル、4」 「それはリーサルウェポンに自然の力が宿ると言う事だ」 意味がわからなかった。 自然の力とはどう言う事だろうか。 ジョンが頭の上に?マークを出していると、それを見抜いた竜神館長が分りやすい例をあげてみる。 「そうだね、分りやすく言うなら………よくRPGゲームとかで炎属性とか水属性とかあるだろう? あれが追加されると言う事だよ」 「………へ?」 詰まる所、火炎剣とか超電磁ヨーヨーとかも出来ると言う事なのだろうか。最終兵器にヨーヨーがあるのかどうかは知らないが、そんなイメージがジョンの頭の中を駆け巡る。 「さて、ここで楽しいお喋りはお終いだ」 楽しいかどうかはおいておいて、何だかジョンは先ほどから危機感を感じる。先ほどから竜神館長は何かおかしい。 「さて、君にはこれから私の実験に付き合ってもらおう。―――――リーサルウェポンとの融合の実験だ」 続く 竜神館長の目的は何と人間と最終兵器の融合だった! そんな出来るのかよく分からない恐るべき実験に付き合わされることになったジョンは悲痛な叫びをあげる。 そんな危機なジョン刑事を救うべくネルソン警部は彼のもとへと駆けつける! しかしその瞬間、誰もが予想しなかった展開に―――――! 次回「その名はポリスマン・グレート!」 第十二話へ |